ロマネスク用お知らせ掲示板です。
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リハビリ。
何の盛り上がりもないです。
何の盛り上がりもないです。
左手に手錠をかけようとして、手が止まった。
躊躇したわけではない。
その証拠に、ここには既に、2つの手錠が用意されていた。
俺の心は決まっている。
キンブリーが口の端を引き上げて、上目遣いに俺を見た。
「よく気がつきましたね。」
俺は黙って、奴の手の甲を合わせさせ、そこをロープで、幾重にも重ねてきつく縛った。
これで、奴の両の手の平が合わせられることはない。
結び目を凝視している青い目が、わずかに歪んだ。
痛いのか。
俺は最後に一重、殊更きつく縛った。
冷たい床に座らせて、両手を肩の上まで引き上げる。
手首の間に先ほどの手錠をかけ、もう片方をクローゼットの金具にかけた。
錬金術の使えないこの男に、これから逃れる術はない、はずだ。
立ち上がって、その姿を見下ろした。
薄い部屋着のまま、ぺたりと床に座り込み、両腕を縛りあげられているこの男の姿。
「これは、貴方の独断ですか。」
俺は何も言わなかった。
奴の言う通りだ。
俺一人が決め、俺一人が望んだこと。
もしこの男が、こんな扱いをされたということを持ち出したとしても、処罰を受けるのは俺一人で良い。
そういう、ことになっている。
俺を見上げながら薄く笑っていたキンブリーは、まあ、いいでしょう、と、クローゼットに体を預けた。
気付かれているかもしれないと思った。
「ここに貴方がいて下さるなら、何も問題はありません。」
俺は、背を向けてイスに腰掛けた。
後ろで聞こえる金属音は、考え事などしていなくても、全く気にならない。
外そうという気は、今のところないらしい。
「それで、私は一体いつまでこうしていれば良いのでしょうね。」
楽しんでいる風にさえ感じられる。
危険人物を、のさばらせておく手はない。
誰もがそう思いながら、この男の目に余る行動を、指をくわえて見ているしかなかった。
のさばらせておく以外、俺たちに一体何ができるというのか。
そんな中で、俺の我慢が限界に達した。
この部屋に尋ねてくることは珍しいことではなかったが、ついには自分の部屋のように、ここに居座るようになってきた。
勝手に鍵を開け、俺よりも早く部屋に来ていたのが、昨日。
俺は覚悟を決めた。
失敗すれば、命が危うい。
こんな手荒な手段が、そう上手く行くはずはない、と心のどこかで思っていたのだが、この男は俺の予想に反し、俺が手錠をかけるときになっても、ほとんど抵抗をしなかった。
当たり前に俺の部屋の風呂使って、全身から良い香りをさせながら髪を梳いている背中に近寄って、腕を逆手に取った。
キンブリーは少しも慌てることなく、むしろくすぐったそうに笑うばかりだった。
こんなにも簡単に、厄介な両腕を封じてしまった。
「私が良いと言うまでだ。」
振り向かないで言った。
キンブリーは、そうですか、とこともなげに言うと、うん、と唸って、手錠をわずかに揺すった。
「腕が疲れますね。」
この男がはじめて漏らした、不満らしき言葉だった。
俺はすぐに手持ち無沙汰になった。
風呂に入りたい気持ちはあったが、なぜか、ここを離れる気にならない。
この男は確かにここに拘束されているのに、前以上に、俺の監視を必要としている。
「留置所にいたときを思い出します。」
そうだった、と、一人で妙に納得した。
これよりももっと不遇な扱いを受けながら、この男はもう何年も過ごしてきたのだ。
こんな状況で落ち着いていられるのも、頷ける。
「あそこにいたとき、何が最も苦痛だったと思いますか、」
俺に聞いているのだろう。
うんざりしながら、知らん、と、ぶっきら棒に答えた。
知るわけがない。
食事、規則、衛生面。
何を取っても、苦痛でないはずがない。
「話し相手がいないことですよ。」
ぶっきら棒にでも、答えてしまったことを後悔した。
俺は立ち上がって、ベッドに投げられた着替えを掴んだ。
「どこに行くんです?」
今度こそ、俺は何も答えなかった。
だが、がらがらと音を立てて開くバスルームの扉は、どんな言葉よりも如実に、質問の答えを示している。
笑われているような気がした。
そしてそれは恐らく、間違っていないだろう。
あんな状況にあっても、あの男には全く、囚われの身であるという様相がない。
石鹸を泡立てると、囚人と同じ匂いがした。
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最後がかきたかったのにね。。。
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